前回に続いて、もう一つ。
門人のことを。
始まる前に少々雑談などをしている。
私はK先生が好きなので、ニコニコして聞いている。
Iさん「先生、私太極拳やっててよかったです」
K先生「あら、そう? なにかありましたか?」
私も耳をそばだてる。太極拳法をやってて、私も多分ものすごく恩恵がある。精神的に落ち着いたし、悩まなくなった。
いったい彼女の「よかった」は何だろう。
Iさんは「同じくらいの年齢の人が職場にいるんですよ」
うんうん。先生と私は聞くモードになって耳を傾けている。
そしたら! とIさんが満面の笑顔で言う。
立位体前屈の姿勢を取って、「これがね、その人全然届かないんですよ」。
「私は届きます」と指先をちょろっと床につけて見せた。
太極拳のおかげですね。
はーあーー?
私はそっと場を離れた。
ついていけない。
他人よりちょびっと体が柔らかいということが「よいこと」なのか。
私も嫌味な人間だ。その場で立位体前屈をして、掌をべったり床につけてみた。
そんなの、太極拳法しなくても全然できるでしょ?
10年以上やっている人がこのレベルと意識なのだ。
K先生も、あいまいに笑って、「そうね」「よかったわね」と受け流した。
なんで太極拳法するの?
体を柔らかくするため?
もちろん、それも悪くはない。でも「他人」と比べてどうする?
たった3年の歴の新人の私のほうが、あなたよりも余程柔らかい。
でも、そういうことを目指してやってるわけじゃないでしょ?
自分の身体と向き合い、決められた動きの中で身体をコントロールしていく。
そういうことが、自分の中に意識を向ける手段でもある。
このIさんは、私と同じ年齢なのだが、いろいろ張り合ってきて疲れるのである。
いつも「他人」と比べてきたんだろうな…。そういうの、疲れますよ?
いや、口を挟むのはやめよう。
私はこの人に何の興味もないからね。