私の最古参の門人(今は違うが)に、Sさんという女性がいる。
私が「弓道面白いですよー」と二段くらいのとき誘ったら、「絶対に弓道はしません!」と固辞されていた方。
何かあるのかなあと思っていたら、案の定、学生時代にパワハラとかいうのにあって、弓道なんてしたくないということだった。
だが、学生ですでに四段だった彼女を放置しておくのに忍びなく、さらに誘い、彼女は弓道に復帰。
さすがのセンスの良さと、性格の良さ(素直)でめきめき上達し、すぐに五段合格の現在錬士。

そういう彼女の目標は、「全日本(皇后杯)」である。

私も身体操作の視点から少しお手伝いをさせていただいた。
「ありがとうございます。弓道に復帰できたのは、ららさんのおかげです」といつも感謝してくれる。

そして、なんと今年、中国予選を突破してなんとなんと当県からは一人代表に選ばれたのである。(男子は2人)
そして、挑戦したのだが、緊張もあったのだろうな。半矢いかず予選落ちで帰ってきた。

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私が知っていたのはここまで。

先日、じっくり話す時間があった。
いろいろ話をして、話が尽きたころに、彼女が「全日本すごく楽しかったんですよ」という。
うんうん。よかったね。来年また挑戦だね! と私が言うと「いや、もう無理です」という。
ん? プレッシャーすごかった? 「はい」

そこで話が終わっていたのだが、後から、ぽつりぽつりと語り始めた。

同じ道場にいるH先生(教士…錬士よりも上)。何度も全日本に出ているベテラン。
彼女も二本詰めたのであるが、まったく予選で点が届かずSさんだけが中国予選を通過したらしい。
すると、道場で居心地が悪い…。

教えを乞うと「えー? お上手なんだから、私なんかが見なくてもいいでしょ?」と「お上手なんだから」と繰り返すらしい。
私はそれを聞いて「教士返せ!」と叫んでいた。教士ってのは、人に教えなさいという意味でいただくものだ。
それでも、H先生にお願いすると、「いやー、私は下手だから」と嫌味で言う。
介添などは、全日本に何の関係もないのに、質問すると「えー、私じゃとても教えられない―」「えー、いいんじゃないのー?」と全然見てくれない。
見かねて周りの人が「先生、少しでいいから見てあげてくださいよ」という始末。
ほかにも、何か突っかかってくる。
そのH先生っていうのは、国体もずっと出ていた方。全日本も8回くらい出ていて、去年は予選11位だったのを皆に嬉しそうに話していた。(10位までが予選通過)。
弓道にすべてをささげた人生。すごいな、凄まじいなと思う。
ただ、絶対に目が笑わないので、私は苦手な人の一人ではある。

そういう話をしながら、「ごめんなさい、涙がでる」とSさんはボロボロ泣いていた。

いいんだよー。涙でるよー。ホント、私も泣けてくるよ。
私ももらい泣きしながら、話を聞いたのである。

そんな意地悪な人のために、あなた、長年の夢をあきらめるの!?
あんなに、皇后杯がんばろうって言っていたじゃないの!
楽しかったんでしょう? また頑張ろうよ。
ただ、H先生の道場はやめちゃえ!!

そういうと、Sさんの顔が輝いた。
H先生の道場は私の家の前。私も8年前にそこで弓道を始めたが、5年くらいしかいることができなかった。
H先生以外も、意地悪なんだ。(トップが意地悪ということは、下も押して知るべき)
すぐに、そこをやめて勤務先の地区に移籍をした。
移籍をする前から、ずっともう家の前の道場には行っていない。
移籍してからすぐに五段に合格したので、精神的なものは大切。
今の道場では、皆が本当に応援してくれる。

H先生のように嫉妬深い人はいない。
それって、大事。

そういう話をSさんとした。
Sさんは、弓道のために引っ越すことも考え始めた。
(居住地区しばりがある。私のように勤務先でも良いのだが)。
そもそも当県出身者であるから、実家だって、きょうだいだって、県の西にはいるのだ。
そこに移籍してしまえ。なんなら、私の所属道場でもめっちゃ歓迎ですよー!

最後に「これって、パワハラ案件だよね」とポツリと言う。

しかし、「誰」というのがすぐわかってしまう上に、県の最も中枢に属するH先生の非難などできようもないのは、私にもわかった。
本当に、胸糞悪い。

Sさんが元気になりますように!!
No.581 PERMALINK