くろねこ2出会い

くろねこ 2024/08/30(金) 16:15
で、弓道の稽古に行く前に寄ったんですよ。
(朝9時くらい。弓道着のまま。当時コロナ真っ盛りで電話全然つながらなかった。)
すると、職員さんが「ああ、今さらに2匹増えてますよ。同腹です。白黒と雉猫かな」という。
さらに「今から何件か譲渡希望の方が来るんですよ」という。

…私は、他の家にもらわれるなら、そっちがいいと思う。
うちは狭いし、まず、6匹もいてその中から選ぶなんてね。
二匹もらって帰るつもりだったのだが、先に私が選ばないほうがいいと思った。
家族で見に来て、子どもが気に入る猫がいるほうがいいだろう。
私は正直どの子でもよかった。(娘よすまん)。

★二匹をもらうというのは、子猫はぜひ二匹で飼育していただきたいからである。
 こういうときには、獣医師としての経験がものを言う。
 猫を飼いたいという方には、できれば二匹でとお願いしている。
 特に、昼間誰もいないようなおうちで、子猫を飼うというのは、残酷すぎる。
 寒い時期は温めあい、暑い時期は離れて、暇ならじゃれて、遊びあう。
 猫は二匹で飼育してくださいと、何度も飼い主さんに言ったものだ。

「じゃ、夕方に来ます。もらわれてしまってたら、残念ですが諦めますね!」と笑顔で辞去した。
職員さんは、「一目だけも見ていきませんか」と誘ってくれたが、早く稽古に行きたかったし、どうせ選ぶつもりはなかったので(余った子がいれば、というくらいだった)早々に弓道場に向かった。

そうそう。8月23日のことである。
昼を挟んで、弓道場には午後4時過ぎまでいた。
汗だくで、汗臭い私を、職員さんは「ああ」という風情で、動物舎まで連れて行ってくれた。
案内された動物舎は冷房が効いていてひんやりしてた。
ケージはすべてステンレス製で、床は水がながせるような殺風景な動物舎。
案内された先の冷たいステンレスの檻の中にいたのは「くろねこ!」「三匹!」
男の子と女の子が別のケージに入れられていて、男の子は震えながらも二匹寄り添っていた。女の子はケージ越しに男の子のケージのほうにくっついていたが、とても不安そうだった。

ありゃりゃ。
三匹ですか?

はい。他はもらわれました。

それはよかった。
しかし、娘のご希望の子はいない。もらわれたのだろう。
やせた、毛並みのボサボサの三匹。三匹かあ。

一つ賭けをした。
私はもう三匹を連れて帰るつもりになっていたが、同居人に電話をした。
もし万が一同居人が難色を示すようなら、彼を叩き出せばよい。
そんな奴に用などない。

「もしもし。今保健所。猫三匹おるんやけど。」
「うん」
「連れて帰るけど。」
「え。あ、わかった。いいよ」
「うん。じゃ、そういうことで」

あっという間に電話は終わり、同居人は家を叩き出されずに済んだ。
そして、職員さんが嬉しそうに書類を持ってきて、譲渡が終了。

ちなみに「少し考えたいのだけど、この子たちの保護期限はいつまで?」と聞いた私への答えは「明日の朝一で殺処分です」というものだった。
時間は午後4時半。閉庁は午後5時。もう明日の朝まで見学者もいないだろう。
明日の朝、この子たちは冷たいぐにゃぐにゃの有機物の塊になる。
楽しいも悲しいもうれしいも何もないところへ行く。
多分、大きさからみて、生まれて一か月くらいだ。
これまで何があったんだろう。
お母さん猫は元気なんだろうか。
少しは幸せな時間があったろうか。

そう思うと、涙が出てきた。

涙を隠して書類にサインする。
横でホッとしている風な職員に、「あ、自分獣医師なんで、大丈夫ですよ。動物愛護法はよく理解しています。最後まで責任をもって終生飼育をします。本当にありがとうございました」と頭を下げた。
職員は一瞬「獣医師?」という顔になったが、笑顔で送り出してくれた。
仕事とはいえ、殺処分はやるほうも辛いことだろうと思う。

・・・・・・・・・・・・・

二匹入れるはずだった持ち運び用のキャリーには三匹の猫。

あまり鳴かない。
特に、女の子が他のきょうだい猫と会えたのが、うれしい、私がうれしい。
ふと思いついて、以前の勤務先の動物病院に寄る。

「猫もらってきたので、健康診断とノミダニ駆除と糞便検査お願いします」

数年ぶりの動物病院はスタッフも新しい人ばかりだったが、院長と師長は相変わらずだ。
診察台にわらわらと出てきた3匹を見て、スタッフの皆も笑顔になった。
名前はまだない。
保健所がやってくれたのか、ノミダニはいなかった。
寄生虫もいない。
栄養状態は悪くもなく、普通。

院長が毛並みを撫でながら、「あれー、この子たち、長毛種ですよ? 大丈夫ですか?」と言う。
私は、恥ずかしながら、長毛種の猫を飼ったことがないので、この子たちはただ単に毛並みが汚いだけだと思ってたんである。
「なんとかします。」と笑って、避妊去勢の相談をして、診察終了。

洗おうかと思ったが、環境が変わってストレスだろうから様子を見ようと思い、家に放した。
冷房のない暑い家の畳の部屋でコロリと横に転がって、三匹でじゃれあってる。
ああ、三匹でよかったなあ。
この子たちの、人生(猫生)は、明日で終わるはずだったのがけど、今からはいっぱいいっぱい幸せに過ごすんだよ。
終わりの日まで。全員、私が面倒を見るよ。幸せになってよ。

不思議と子猫たちは人懐こく、私の足の隣に背中のふわふわを触れさせてコロリと横になる。
まだ人間とかよくわからないようだが、近寄ってくる。
食べ物は子猫用の柔いフードで大丈夫だった。

トイレ、ごはんとそのあと目まぐるしく過ごしたのである。
結局3匹を洗うことはなかった。
(汚れているのではなく、毛が細くて絡まっていたのである)。





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