まさか、まさか。
遠くから、あの方が歩いているのが見えた。
駐車場の止めてある車列の向こうから、見えるはずないと思ったけど、会釈をした。
ああ、お元気そう。こちらのほうに停めることもあるんだ。
私のことは見えていないだろうなあ。でも良かったなあ。
車を停めて、今もしかして、走って行ったら追いつく? などと考えてやめる。
そんな惨めな。気づいてなどいないし、気づいていても、きっともう先に行っている。
でも、もしかしたら…心臓がどきどきするのをなだめて、いつもよりゆっくり身支度して車を降りる。
後のトランクにある部品を探して、ゆっくり顔をあげたら、まだいてくれた!
背中を見ながら、距離を詰めないように付いていこう。背中を見れるだけでも幸せだからと思っていたら、振り返った!!!!!
あああ! こっち見てる!
私の心臓はバクバク。
思わず走り出す。尻尾を持ってなくて良かった。
もし尻尾があったら、思いきりブンブン尻尾を振って走っていた。
笑顔で待ってくれているあのヒト! 近づくまでの数十メートルがどんなに幸せでどんなにドキドキしたか。
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いつものあのヒト…ではなかった。
師匠が亡くなって以来とはいえ、そのときは、マスクをされていた。
数年ぶりにマスクを外したお顔を拝見できた。
白いモノが混じる。あ、年齢を重ねられたなあと思う。
しまった。私も歳をとった。私は、括っただけの髪型やすっぴんの顔を恨めしく思い、マスクを外す勇気がでないままだった。
なんと、なんという圧倒的な佇まい。
そして、たぶんこんなことを書いたら困惑するだろうけど、美しさの極致がそこにはあった。
色が白いから、とか、まつげが長いとか、そういうものではない。
一つ一つ属性をそぎ落としても、そこに屹立する「美」。
以前の若々しいあの方も素敵だった。
今日のあの方は、神々しいまでに美しかった。
内面から、にじみ出ている何か。
私のような人間が声をおかけしたら罰が当たるかもしれない。
というか、話した内容も、何もかも私はどこかで遠くで聴いていた。
ただただ、圧倒されていた。
失敗続きの人生だけど、辛いことの多い人生だけど、あのような方と知り合えたことはなんと幸運で素晴らしいことだろうか。
それだけでも、十分に私の人生にも価値があるということだ。
本当の美とは、若さでも飾り立てた外見でもない。
歳を重ねて、人生の終盤にいることの覚悟と自覚。
諦めでもなく、調和してそこにいる。
そのことが圧倒的な美を生み出す。
なんと。
なんと人間は素晴らしい。
あのような年齢の重ね方があるとしたら、それは希望。
老いていく、死んでいく運命の中で、そのことを学ぶ。
ありがとうございます。
お元気で。お元気で。
私も、転びつつ傷だらけになりつつ、生きる限り生きていきます。
お元気で。